もう一つの人間観
『もう一つの人間観』は僕の恩師の和田重正先生の著作です。この本は50年ほど前に柏樹社より初版が発行されましたが、その後地湧社によって発行されました。この度在庫がなくなったのを機に再販されることになりました。稀に見る良書ですので、みなさんにお勧めいたします。なお、再版には若干の期日を要しますので、その節にはこの『いのちの塾』のブログを通じて、改めてみなさんにご連絡いたします。以下の文章はぼくが地湧社に依頼されて書いたものです。ご一読ください。
推薦の言葉
本書の著者、和田重正先生は10代半ばに「自分とは何か?自分はどう生きるべきか?」という大疑問に直面され、苦悩すること約10年、ついに完全に行き詰まり、まさに命を絶とうとした時に、桃の花を見て、この世界の真の姿と真の生き方に目覚められたそうです。その後は生涯市井にあって青少年の人間教育に尽力されました。ご著書も多数あり、それぞれ特色がありますが、本書は言わば、それらの本の集大成と言ってもよいでしょう。
私たちはもの心がついて以来、家庭、学校教育、友人関係、テレビや新聞の報道など周囲の影響を強く受けながら育っていきます。それは社会人になってからも続きます。その結果、よくよく確かめてみると、真実でないことをあたかも真実であるかのように思い込んでいたり、本当はよくわかっていなければならない大切なことがほとんどわかっていないことが意外にあります。その代表が「この自分とは何だろう?」というテーマです。
しかし、このテーマは「真実は~~だから~~である」などと単に理屈を教えてもらったとしても、「なるほど!」と実感的に理解し納得することは非常に難しいと言わざるをえません。それは、学んでいる“生身の自分“自身がテーマだからです。その点、和田先生の人間教育の特徴は「教えない教育」だと言えます。すなわち、“生身の自分“が先生の書かれたものを読んで行くうちに、内面から触発されて、自然に真実に目覚めるように導かれて行きます。
本書においては、和田先生独自の観点から、まず人間の欲望や本能の特徴やその働きの持つ意味について、次に、生物の進化と人間の一大特徴である大脳の役割やその意味についても述べられ、そもそも人間はどのような特徴と役割を持ってこの大宇宙に誕生したのかということについて明確に説明されています。読者はそれを読み進みながら、自分自身を振り返り「自分とは何ものか?どう生きればよいのか?」ということについて自覚を深めて行くことでしょう。
そういう意味で、和田先生が書かれたことの真意を本当に理解するためには、一つ一つの段落を味わいながら繰り返し読むことが秘訣だと言えましょう。心掛けてそうして、ある箇所を読んでいるうちに、突然目から鱗が落ちるように、「なるほど!」と心から納得するようなことが何回も起きます。そういう体験を繰返しているうちに、いつの間にか、まったく新しい心の眼で本書を読み返している自分自身に気がつかれるでしょう。
私自身は、本書をはじめて読んでから今日まで約50年になりますが、お陰様でその間どんな状況にあっても、心の底ではいつも深い安心の中で生きてきました。そういう自分自身の体験からも、本書は自分というものを深く知り、真に意義ある人生を生きるための絶好の書だと思います。今でも読む度に新しい気づきがあり、感謝の念で一杯です。本書を心からお勧めいたします。